Dr.ホルモンとKent Dr.の内分泌講座

Dr.ホルモンの内分泌講座

甲状腺の病気について

ホルモンの病気のことを内分泌疾患といいますが、この中で、際だって多いのが甲状腺の疾患です。
甲状腺の病気は大別すると、

  • 甲状腺の働きが亢進している甲状腺機能亢進症
  • 低下している甲状腺機能低下症
  • およびその働きが正常な甲状腺腫

の3つに分けられます。いずれも、病気の原因は単一ではありません。

甲状腺機能亢進症の原因としては、甲状腺全体が腫大するバセドウ病、甲状腺内部のしこりが甲状腺ホルモンを過剰に分泌するプランマー病、甲状腺の破壊によって甲状腺細胞内の甲状腺ホルモンが細胞外に過剰に漏出する無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎、橋本病からバセドウ病に変わるHashitoxicosis, 下垂体のTSHにより甲状腺が過剰に刺激され甲状腺ホルモンが過剰となる 下垂体TSH 産生腫瘍や甲状腺ホルモン不応症(下垂体の甲状腺ホルモン不応症)など多様です。

一方、甲状腺機能低下症の原因で最も多いのが慢性甲状腺炎(別名橋本病)です。下垂体が障害されてTSH の分泌が低下したり(下垂体機能低下症)、バセドウ病や甲状腺癌の外科手術後や131I アイソトープ治療によって甲状腺が破壊された場合も甲状腺機能低下症となります。ただ、拒食症や重篤な病気で低栄養状態の場合も甲状腺機能低下状態(低T3症候群、低T4,T3症候群)となりますので注意が必要です。

以上の病気の診断は臨床症状、臨床経過、血液中の甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン、遊離トリヨードサイロニン), 下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)、抗甲状腺抗体(抗ペルオキシダーゼ抗体、抗サイログロブリン抗体)、TSH受容体抗体(TSH Receptor Antibody)、甲状腺刺激抗体(TSAb)等の測定や甲状腺エコー所見で診断されます。TSH産生腫瘍は稀な病気ですが、これが疑わしい時は下垂体のMRI検査を行います。

バセドウ病やHashitoxicosisは抗甲状腺薬(メルカゾール、チウラジール)で治療しますが、これで副作用が出る場合や難治性の場合はヨウ化カリウムや手術、131Iアイソトープ治療を行います。プランマー病は手術で結節を除去しますが、術前に抗甲状腺薬で甲状腺機能を正常にする必要があります。亜急性甲状腺炎にはステロイドホルモン(プレドニゾロン)が大変良く効きます。ステロイドを急に止めると離脱症状が出現しますので、徐々に減量します。無痛性甲状腺炎は自然に落ち着いてゆきますので甲状腺に対する治療は行いませんが、動悸が強いときはβ1ーブロッカーを用います。TSH産生腫瘍は手術摘出や放射腺療法(時にサンドスタチンLAR注射)を、また甲状腺ホルモン不応症は大部分の例では治療不要ですが、症状が強い例にはβ1ーブロッカーを用います。
甲状腺機能低下症には甲状腺ホルモンの補充を行います。慢性甲状腺炎やバセドウ病の治療の際はTSHと甲状腺ホルモンを正常範囲に維持し、甲状腺癌の術後の場合は再発予防のため、TSHを測定不能域になるように甲状腺ホルモンの投与量を設定します。

甲状腺のしこりが結節性のものを総称して甲状腺結節といいます。これらは内分泌疾患の中でも最も頻度の大きな病気です。甲状腺結節は腫瘍様の病変と甲状腺腫瘍に分けられます。腫瘍様病変で最も多いのが腺腫様甲状腺腫です。これは甲状腺内に結節性の病変が多発するもので、本当の腫瘍ではなく過形成であるとされています。直径1cm以下のものは甲状腺エコーで定期的にチェックしてゆきますが、それ以上の大きさものやサイズが大きくなってゆくものは穿刺吸引細胞診を行います。
甲状腺腫瘍は良性と悪性とに分けられますが、良性の中では腺腫や単純性嚢胞が比較的よく見られ、悪性の中では乳頭癌が最も多くついで濾胞癌、まれに未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫等が見られます。後者は手術で摘出しますが、前者は一般的に手術をせずに経過観察します。しかし、腫瘍が大きく、頚部の圧迫症状が見られたり、細胞診で悪性所見が認められる場合は手術適応となります。なお、甲状腺結節の大多数(90%以上)は良性とされています。
その他、甲状腺全体が腫大しているが、検査をしても何ら異常が見られない単純性甲状腺腫も大変良く見られる病気です。思春期や妊娠中に目立ってくることがあります。特に治療を必要としませんが、定期的に甲状腺の状態や甲状腺ホルモン、甲状腺抗体のチェックを受けると良いでしょう。大きいのが気になるときは甲状腺ホルモンの内服で縮小させることもあります。

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